東京高等裁判所 昭和24年(を)3230号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
原審第一回公判調書中被告人は検察官が朗読した起訴状の公訴事実に対して「その通りでありまして別に申上げる事はありません」と述べた旨の記載ある外に特に犯罪事実に対する供述のないことは所論の通りであるが、右被告人の供述は検察官の朗読した公訴事実をその内容としているものであつて、これによれば結局被告人は判示事実と同旨の供述をしたものである。而してこのような冒頭の陳述でもその任意になされたものである限りそれ自体証拠能力を有するものであることは争のないところであり唯その証明力に至つては裁判官の自由なる判断に委ねられているに過ぎない。
原判決がその判示冒頭において被告人の前科の事実を掲けこれが認定の証拠として被告人の原審公判廷における自白のみを援用していることは所論の通りである。而して一般に前科の事実は犯罪事実即ち刑罪権の存否に関係ある事実ではないが尚刑罪権の範囲を画する事実として広い意味における「罪となるべき事実」ということができる。従つてこれが認定は固より適法な証拠によらなければならない。併し乍ら憲法三八条刑訴法三一九条によつて被告人の自白が唯一の証拠である場合に有罪とせられることがないのは、かかる場合の自白の証明力に法定の制限を設けて之のみを以てしては犯罪事実を証明したものとなすを得ないものとしたのであつて、畢竟それは公訴にかかる犯罪事実即ち犯罪の構成要件そのものに関するものであることは疑のないところである。従つて前科の事実の如きは刑罪権の範囲に関するものとして、同じく広い意味の罪となるべき事実に包含せられるけれども犯罪事実そのものではないから、之を認定するに被告人の自白のみを以てしてもその自白の任意のものである限り、固より適法な証拠によつたものと云うべく本来前記法条の関するところではない。